2009-11-07 [詩]

言葉をすべて忘れてしまったら

その時

きっと

幸せになるだろう

毎日 毎日

捨てている


2009-11-07 [詩]

空白を埋めるべく

思い出を作っている 夜である

朝にはすべてを捨てる


2009-10-28 [詩]

ぐったりと夜が倒れ込んだ公園で

盲いた月の光に照らされて

開かれているサーカスがある

錆び付いたブランコは

空に放り上げられたまま凍てついて

冷たい汗を流し

ねじれきったジャングルでは

小人のピエロが閉じ込められ

めそめそと 老いた年を数えている

濡れた砂場では

行き場を失った魂が かすかに発光しながら

風船のようにふわふわと

ひそひそ声で話している

滑り台では

過去から未来までの時間たちが

入り乱れ 先を争い

滑り落ちては満足そうに消えて行く

公園の唯一の街灯は

今にも切れそうに警告の点滅を繰り返し

襤褸をまとった楽隊は

壊れた楽器を大事に抱え

小さな公園を疲れも知らずに

果てしなく同じ曲を繰り返し 

ぐるぐるぐるぐる回っている

片眼のモギリは大きな声で

犬歯のぞかせ 叫ぶが

とっくに凍ったまま眠る 悪夢すら見ることのない人間たちに

届く訳もなく

びっこの野良犬が不思議そうに眺めている

見えない風がひたひたと 公園を囲み

空にゆっくりと 持ち上げようとしている

 


2009-10-28 [詩]

苔むした空に鳴ける鳥たちは

鋼色(はがねいろ)の嘴で

小さな穴開け 幾万の群れなし

一斉に飛び立てり

浄土の門は錆び付いて

黒い風に揺すぶられ

キコキコキコと 悲しい声を上げている

傍らに立つ門兵は

名もなき蔓に首締められ

ゆらりゆらりと揺れている

読経の声は勇ましくも

朽ちたる伽藍の壁に張り付いて

スルリスルリと這って行く

台座の上の仏像は傾いたまま

剥がれた金の唇に

小さな笑み浮かべ

静かに更に傾きし


2009-10-28 [詩]

もう明け切ることのない朝

歪んだ窓の外では

見えない空に ぼんやりと景色が映し出され

鳥の声が殺気だっている

台所では 切れない包丁が

だらだらと血を流し 

青白く光る俎板の上には

昨日の思い出が覚悟したかのように

転がり

冷蔵庫の中には 明日が

凍り付いたまま ラップされ

傍らでは記憶が悲しい色をして

干からびている

息苦しいほど狭い部屋の中では

時間がゆっくりと渦巻き

私は一杯のコーヒーを飲み終えたところだ

 


2009-10-28 [詩]

誰も上がれない屋上の庭園では

色とりどりの花々が

領土を侵し合い 混じり合い

奇形の花を咲かせている

そのむせかえる臭いの中

雌しべも雄しべもない 花弁には

眼を失った蝶たちが

狂ったように 乱舞し

疲れ切った蜂たちは  

お互いを刺すことに夢中になっている

色を消した梢からは

涎のように 蜘蛛たちがぶらさがり

絡みあった糸の上を 右往左往している

草はねじれ合いながらも

お互いを出し抜こうと競り合って伸びている

羽を切られた鳥たちは

陽の当たらない片隅で

死んだように 糞まみれの卵を抱えている

どこからともなく流れる水は

今は鋼鉄色に氷り

灰色の空は 少しづつ少しづつ低くなり

すべてを窒息させるかのように 

包み込もうとしている


2009-10-25 [詩]

何が 不満なのか

一晩中

胃が

腸が

パンパンに 膨らんで

眠ることもできない

すると今

キュルキュルと

グジュグジュと

キューと

ギュルギュルと

腸が急に動き出し

ねじれた腸が

元に戻ろうと

グビグビと

グーと

ポコポコと

急に動き出し

 

多分

まだしばらくは

生きているしかないのだろう

 


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2009-10-19 [詩]

苔むした景色の中を

知らん顔をして 反転していく風がある

研ぎ澄まされた羅針盤は 誰もいない船の中で

キュイーンキュイーンと 泣くばかり

船室には脱ぎ捨てられた過去たちが

乱雑に散らばり

厨房の水槽では 眼の退化した深海魚が

じっと未来を見据えて 動くこともない

冷えた無線室では FAXがけだるげに 

白紙の束を 次から次と 吐き出している

辿ってきた航跡は 泡のように消え

暗い海は 果てしもない怠惰の中を

ただゆらゆらゆらゆら 

ただ揺れている

今しも 一匹の蝶が 希望のような 装いをして

キラキラキラキラ 光りながら

一本マストの明かりの中を 

しんしんと 通り過ぎてゆく

 

 

 


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2009-09-26 [詩]

がんじがらめの生もあれば

がんじがらめの死もある

縛ったのは

あなた わたし

わたし あなた

どこかにある結び目を

誰も知らない

知らないままお互いを 縛っている

 


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2009-09-25 [詩]

朝だというのに

出勤途中だというのに

道ばたに 腕が落ちている

右腕が 左腕を

しっかりと支えて

腕が落ちている

遅刻しそうな僕は 

足早に通り過ぎ

ふと

両腕を 空に上げた


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